長距離配線の電圧降下・光減衰対策|電気設備技術基準に基づく計算方法と実践的設計ノウハウ

大規模な工場や商業施設、公共建築物における電気設備の設計・施工では、数百メートルに及ぶ長距離配線が不可欠です。
しかし、配線が長くなるにつれて「電圧降下」や「光の減衰」といった問題が顕在化し、設備の性能低下やトラブルの原因となります。

これらの問題を防ぐには、電気設備技術基準などの公的基準に基づいた、正確な計算と適切な対策が求められます。
本稿では、電気設備設計や施工管理に携わる技術者の方向けに、長距離配線における電圧降下と光減衰の対策について、その根拠から具体的な計算方法、実践的な設計ノウハウまでを解説します。

なぜ問題になる?長距離配線における「電圧降下」と「光の減衰」の基本

長距離配線における品質低下の要因として、「電圧降下」と「光の減衰」が挙げられます。
この二つは根本的に異なる物理現象であり、それぞれのメカニズムを正しく理解することが、適切な対策を講じる第一歩となります。

電気配線の「電圧降下」:オームの法則と電力損失が根本原因

電圧降下とは、電流が電線を流れる際に、電線自体が持つ電気抵抗によって電圧が失われる現象です。
これはオームの法則(電圧 V = 電流 I × 抵抗 R)によって説明できます。

電線の抵抗値は、その材質、長さ(L)、断面積(A)によって決まります。
具体的には、電線が長く、細くなるほど抵抗値は大きくなり、電圧降下も増大します。
この電圧降下は、単に機器に届く電圧が低くなるだけでなく、ジュール熱(電力損失 = I²R)としてエネルギーが失われることを意味し、過度な発熱は火災のリスクにも繋がります [1]

影響要因 電圧降下への影響
電線の長さ (L) 長いほど電圧降下は 大きく なる
電線の断面積 (A) 小さい(細い)ほど電圧降下は 大きく なる
電流の大きさ (I) 大きいほど電圧降下は 大きく なる
電線の材質 (ρ) 抵抗率が高いほど電圧降下は 大きく なる

光ファイバーの「光の減衰」:吸収・散乱による信号品質の低下

一方、光ファイバーにおける光の減衰(伝送損失)は、光信号がケーブル内を進む過程で光の強度が弱くなる現象です。
これが大きくなると、受信側で信号を正しく認識できなくなり、通信エラーが発生します。

光の減衰を引き起こす主な原因は以下の通りです。

  • 吸収損失: ファイバーのガラス材料自体や、製造時に混入する不純物(特にOH基)が、特定の波長の光を吸収することで発生します。
  • 散乱損失: ガラスの微細な密度ゆらぎによって光が散乱する「レイリー散乱」が主な原因です。波長が短いほど影響が大きいため、長距離通信では長波長の光が使用されます。
  • 曲げ損失: ファイバーが許容半径を超えて曲げられた際に、光が外部へ漏れ出してしまいます。
  • 接続損失: コネクタ部分での光軸のずれや端面の汚れ、融着接続の不備などによって発生します [2]

【電気配線】電圧降下の許容範囲と法的根拠を再確認する

電圧降下対策を検討する上で、設計の拠り所となるのが各種法令や標準仕様書で定められた許容値です。
これらの数値を遵守することは、コンプライアンス確保と設備の安定稼働に不可欠です。

電気設備技術基準・内線規程に定められた許容値

国内の電気設備設計において、最も基本的な基準となるのが「電気設備技術基準の解釈」および「内線規程」です。
これらには、電圧降下の許容値が明確に示されています。

配線区間 許容電圧降下率の目安
幹線(変圧器二次側から分電盤まで) 3% 以内
分岐回路(分電盤からコンセント等の負荷まで) 2% 以内
施設全体(幹線と分岐回路の合計) 5% 以内

また、電気事業法では、電力会社が供給する電圧を標準電圧の一定範囲内に維持するよう定められています。
設計においては、この供給電圧の変動も見込んだ上で、末端の機器で要求される電圧を確保する必要があります。

公共建築工事標準仕様書(電気設備工事編)での要求事項

公共建築物などの案件では、「公共建築工事標準仕様書」が適用されます。
この仕様書でも、内線規程と同様の電圧降下率が求められるのが一般的です。
発注者や監理者に対して設計の正当性を説明する際には、これらの公的な基準が強力な根拠となります。

なぜ許容値が重要か?超過した場合の4大リスク

許容値を超えた電圧降下は、さまざまなトラブルを引き起こす可能性があります。
設計段階でこれらのリスクを認識し、未然に防ぐことが重要です。

  • 機器の性能低下・誤作動: モーターの出力が落ちたり、照明がちらついたり、精密な電子機器が不安定になったりします。
  • 機器の寿命短縮: 不安定な電圧は機器内部の部品にストレスを与え、故障の原因となります。
  • 発熱による火災リスク: 電圧降下による電力損失は熱に変わります。特に接続部などで過大な電圧降下が発生すると、異常発熱から火災に至る危険性があります。
  • 電力損失の増加: 電圧降下はエネルギーの無駄遣いを意味します。省エネルギーの観点からも、電圧降下は最小限に抑えるべきです。

【電気配線】電圧降下を防ぐ具体的な計算方法と4つの設計対策

電圧降下が許容値を超えないようにするためには、設計段階での正確な計算と、それに基づいた適切な対策が不可欠です。

ステップ1:電圧降下の計算式を使いこなす

実務で用いられる代表的な電圧降下計算式を以下に示します。
これらの式を用いて、設計した配線ルートでの電圧降下を事前に見積もります。

基本の計算式(単相2線式・単相3線式・三相3線式)

ケーブルのリアクタンスを無視できる比較的短い距離や小電流の回路では、以下の簡略式が用いられます。

配線方式 電圧降下 (e) [V] の計算式
単相2線式(線間) e = (35.6 × L × I) / (1000 × A)
単相3線式(大地間) e = (17.8 × L × I) / (1000 × A)
三相3線式(線間) e = (30.8 × L × I) / (1000 × A)
L: 電線長 [m], I: 電流 [A], A: 電線断面積 [mm²]

より正確なインピーダンス法による計算(抵抗RとリアクタンスXを考慮)

長距離配線や大電流の幹線では、電線のリアクタンス(X)成分が無視できなくなります。
その場合は、抵抗(R)とリアクタンス(X)を合成したインピーダンス(Z)を用いて、より正確な計算を行います。
特に力率(cosθ)が低い負荷の場合、リアクタンスの影響が大きくなります。

電圧降下 e ≒ I (Rcosθ + Xsinθ) × L

ステップ2:コストと性能を両立する実践的な4つの対策

計算によって電圧降下が許容値を超えそうな場合、以下の対策を検討します。
コストと性能のバランスを取りながら、最適な方法を選択することが求められます。

対策1:ケーブルサイズの最適化(断面積の増加)

最も基本的で効果的な対策は、より断面積の大きい(太い)電線を使用することです。
断面積を大きくすると電線の抵抗値が下がるため、電圧降下を直接的に抑制できます。
ただし、ケーブル費用や施工コストが増加するため、過剰なスペックにならないよう経済合理性の検討が必要です。

ケーブル種類 (600V CV) 断面積 (mm²) 抵抗値の目安 (Ω/km)
CVT 60sq 60 0.322
CVT 100sq 100 0.191
CVT 150sq 150 0.129
CVT 200sq 200 0.0973

対策2:配線ルートの最適化(配線距離の短縮)

電圧降下は配線距離に比例するため、ルートを短縮することも有効です。
建物の設計段階で、分電盤や変圧器を電力需要の中心に配置するなど、電気室のレイアウトを工夫することで、幹線全体の長さを短縮できます [1]

対策3:回路の分割(電流の分散)

一つの太い幹線で大電流を供給する代わりに、複数の細い回路に分割して電流を分散させる方法です。
これにより、1回路あたりの電流が減少し、各回路での電圧降下を抑えることができます。
特に、多数の負荷が集中するエリアで有効な手法です。

【計算例】CVTケーブル150sq・200mにおける電圧降下シミュレーション

具体的な条件で電圧降下を計算してみましょう。

条件

  • 配線方式:単相3線式
  • ケーブル:CVT 150sq
  • 配線距離 (L):200 m
  • 負荷電流 (I):250 A

計算
e = (17.8 × L × I) / (1000 × A)
e = (17.8 × 200 × 250) / (1000 × 150)
e = 890000 / 150000 ≒ 5.93 V

この場合、約 5.93 V の電圧降下が発生すると見積もることができます。
供給電圧が 200 V であれば、電圧降下率は (5.93 / 200) × 100 ≒ 2.97% となり、幹線の許容値である 3% 以内に収まっていることが確認できます。

【光ファイバー】光の減衰(伝送損失)を克服する設計手法

データセンターやビル間通信など、高速・大容量通信が求められる長距離配線では光ファイバーが用いられます。
光ファイバーの設計では、光の減衰をいかに許容範囲内に収めるかが鍵となります。

ファイバー種別(SMF/MMF)と波長による減衰特性の違い

光ファイバーには、主に「シングルモードファイバー(SMF)」と「マルチモードファイバー(MMF)」の2種類があります。
長距離伝送には、伝送損失が少なく帯域が広いSMFが適しています [3]

特性 シングルモードファイバー (SMF) マルチモードファイバー (MMF)
コア径 約 9 µm(非常に細い) 約 50 µm or 62.5 µm
主な用途 長距離通信(数km〜)、基幹網 短距離通信(〜数百m)、LAN
伝送損失 小さい 大きい
帯域幅 広い 狭い
光源 レーザー (LD) LED, VCSEL

また、使用する光の波長によっても減衰の度合いは大きく異なります。
一般的に、長波長であるほどレイリー散乱による損失が少なくなり、長距離伝送に有利です。

ファイバータイプ 波長帯 典型的な減衰値 (dB/km)
シングルモード (OS2) 1310 nm 0.30 〜 0.40
1550 nm 0.17 〜 0.25(最も損失が少ない)
マルチモード (OM4) 850 nm 2.5 〜 3.5
1300 nm 0.5 〜 1.0

光パワーバジェット計算による損失許容値の算出方法と計算例

光通信システムを設計する際には、「光パワーバジェット」という考え方で、システム全体で許容できる損失量を見積もります。
これは、送信器の出力パワーから、受信器が信号を正常に受信できる最低限のパワー(受信感度)を差し引いた値です。

許容損失 (dB) = 送信パワー (dBm) - 受信感度 (dBm)

計算例

  • 送信器の出力:-5 dBm
  • 受信器の感度:-25 dBm
  • ケーブル長:30 km (SMF 1550 nm、損失 0.2 dB/km)
  • 接続点:4箇所 (損失 0.5 dB/箇所)
  • 設計マージン:3 dB
  1. 許容損失の計算
    許容損失 = (-5 dBm) - (-25 dBm) = 20 dB
  2. 総損失の見積もり
    • ケーブル損失: 0.2 dB/km × 30 km = 6.0 dB
    • 接続損失: 0.5 dB/箇所 × 4箇所 = 2.0 dB
    • 設計マージン: 3.0 dB
    • 総損失 = 6.0 + 2.0 + 3.0 = 11.0 dB
  3. 判定
    総損失 (11.0 dB) が許容損失 (20 dB) よりも小さいため、このシステムは正常に動作すると判断できます。

長距離伝送を可能にする3つの対策技術

光パワーバジェットが不足する場合、以下のような対策を検討します。

対策1:低損失・曲げ不感性ファイバーの選定

ITU-T G.652.Dなどの国際規格に準拠した低損失ファイバーを選定することが基本です。
また、配線ルートが複雑な場所では、曲げによる損失を抑制できる「曲げ不感性ファイバー」の採用が有効です。

対策2:光増幅器(EDFA等)による信号の再生

数十kmを超える超長距離伝送では、途中で減衰した光信号を増幅する必要があります。
エルビウムドープファイバ増幅器(EDFA)などの光増幅器を中間に設置することで、光信号を電気信号に変換することなく直接増幅し、伝送距離を大幅に延長できます [4]

対策3:融着接続とコネクタ清掃による接続損失の最小化

光ファイバーの接続は、損失を最小限に抑えるため、専用の装置でファイバー同士を溶かして繋ぐ「融着接続」が基本です。
コネクタで接続する場合は、端面の汚損が大きな損失原因となるため、接続前の清掃を徹底することが極めて重要です [5]

【独自情報】実務で直面する特殊問題と統合的アプローチ

基本的な対策に加え、実際の現場ではより専門的な問題に直面することもあります。

高調波共振による電圧歪みとインバータ負荷への影響

長距離ケーブルが持つ静電容量(コンデンサ成分)と、変圧器などが持つインダクタンス(コイル成分)が特定の周波数で共振することがあります。
この「高調波共振」が発生すると、インバータなどの高調波発生源によって電圧波形が大きく歪み、機器の誤作動や故障に繋がる可能性があります。
対策として、回路にリアクトルを挿入し、共振点をずらす方法などがあります。

電力線と通信線の離隔距離と電磁両立性(EMC)対策

電力ケーブルと光ファイバーケーブルを同じケーブルラックなどに敷設する場合、電磁両立性(EMC)への配慮が必要です。
光ファイバー自体は電磁ノイズの影響を受けませんが、その周辺に設置される光電変換装置やハブなどの電子機器が、電力ケーブルからのノイズで誤作動を起こす可能性があります。
機器の仕様を確認し、必要に応じてシールドを施したり、適切な離隔距離を確保したりすることが重要です。

まとめ:将来のトラブルを防ぐ、根拠のある配線設計のために

長距離配線における電圧降下や光の減衰は、機器の性能を最大限に引き出し、安定した電力供給とデータ通信を実現する上で避けては通れない課題です。
これらの問題への対策は、単に法令や仕様書を遵守するだけでなく、設備の信頼性や安全性を長期にわたって確保するために不可欠です。

今回解説した計算方法や設計手法を活用し、なぜそのケーブルサイズや配線方式を選択したのかを論理的に説明できることが、発注者や関係者からの信頼を得る鍵となります。
根拠のある設計を積み重ねることが、将来の予期せぬトラブルを防ぎ、高品質な設備構築へと繋がります。