建築空間を美しく演出する間接照明とは?間接照明の基本と設置のポイント


住宅のインテリアを考える際、照明計画は空間の印象を大きく左右する重要な要素です。中でも「間接照明」は、光源を直接見せず、壁や天井、床に光を反射させることで、柔らかく上質な光の環境を作り出す照明手法として、近年ますます人気が高まっています。ただ単に部屋を明るくするだけでなく、空間に奥行きや立体感を与え、リラックスできる落ち着いた雰囲気を演出したり、ホテルのような洗練された非日常感を醸し出したりと、その効果は多岐にわたります。
この記事では、新築やリフォームで間接照明の導入を検討している方に向けて、その基本的な種類と特徴、そして失敗しないための計画のポイントについて、分かりやすく解説していきます。

間接照明の基本的な種類と特徴

間接照明は、光を当てる場所や方法によって、いくつかの種類に分類されます。それぞれの特徴を理解し、お部屋の目的や雰囲気に合わせて使い分けることが、理想の空間づくりの第一歩です。

天井を照らし、空間を広く見せる「コーブ照明」

コーブ照明は、折り上げ天井や壁の上部に光源を隠し、天井面を均一に照らし上げる手法です。光源が直接目に入らず、天井全体が明るく見えるため、非常に柔らかく、落ち着いた光環境を作り出します。
天井面が明るくなることで、視線が自然と上に向かい、天井が高く感じられ、空間全体に広がりと開放感をもたらす効果があります。リビングや寝室など、リラックスしたい空間に最適で、テレビボードの背面やベッドヘッドの上に設置すると、映画館のような没入感や、ホテルのような上質な雰囲気を演出できます。空間全体を穏やかに包み込むような、最も代表的な間接照明の一つです。

壁面を照らし、空間に奥行きとアクセントを「コーニス照明」

コーニス照明は、天井の壁際に光源を隠し、壁面を下に照らす手法です。光が壁のテクスチャー(素材感)を際立たせるため、アクセントウォールとして用いたタイルや塗り壁、カーテンなどを美しく浮かび上がらせる効果があります。
壁面が明るくなることで、空間に奥行きが生まれ、部屋が広く感じられます。また、壁に飾ったアートや写真を照らすことで、美術館のような雰囲気を演出することも可能です。リビングの壁一面や、玄関ホール、廊下などに取り入れると、空間に表情とリズムが生まれます。コーブ照明と組み合わせることで、さらに立体的で豊かな光の空間を創り出すことができます。

壁の上下を照らす装飾的な手法「バランス照明」

バランス照明は、壁面の中ほどに、光が上下に広がるように設計された照明器具を取り付ける手法です。壁面の上方向と下方向の両方を同時に照らすため、装飾的な要素が強いのが特徴です。
壁面に光のグラデーションを作り出し、空間のアクセントとして機能します。日本では住宅で用いられることは比較的少ないですが、ブラケットライト(壁付け照明)の一種として、デザイン性の高い空間演出に取り入れられることがあります。空間に華やかさや個性を加えたい場合に有効な手法と言えるでしょう。

間接照明を取り入れるメリット

間接照明は、ただ「おしゃれ」なだけでなく、私たちの暮らしに多くのメリットをもたらしてくれます。直接照明にはない、その優れた効果について見ていきましょう。

眩しさを抑えた、リラックスできる光環境

間接照明の最大のメリットは、眩しさ(グレア)のない、目に優しい光の環境を作り出せることです。光源が直接目に入らないため、光が非常に柔らかく感じられ、リラックス効果が高まります。特に、一日の終わりを過ごすリビングや寝室において、間接照明の穏やかな光は、心身の緊張を和らげ、安眠へと導く効果も期待できます。天井に一つだけ照明がある「一室一灯」の強い光とは異なり、空間全体を均一で柔らかな光で包み込むことで、落ち着きのある上質な時間を過ごすことができます。

空間に奥行きと立体感を与える演出効果

光と影のコントラストを巧みに利用する間接照明は、空間に奥行きと立体感をもたらします。例えば、コーニス照明で壁面を照らせば、その壁が奥にあるように感じられ、部屋が広く見えます。また、ソファやテレビボードの下に仕込むことで、家具が浮いているような浮遊感を演出し、空間に軽やかさを与えることもできます。のっぺりとしがちな天井や壁に光の陰影が生まれることで、空間全体が単調でなくなり、表情豊かで洗練された印象になります。間接照明は、光で空間をデザインする、非常に効果的な演出手法なのです。

建築やインテリアとの一体化

間接照明は、天井の折り上げ部分や、壁の凹み、造作家具といった、建築そのものに照明を組み込む手法です。そのため、後から照明器具を置く場合と異なり、空間全体がスッキリとまとまり、照明と建築、インテリアが美しく一体化します。
コード類が露出することもなく、掃除の手間が省けるという実用的なメリットもあります。建築計画の段階から照明計画を綿密に練ることで、無駄がなく、完成度の高い上質な空間を実現することができます。

失敗しない間接照明計画のポイント

魅力的な間接照明ですが、計画を誤ると「思ったより暗かった」「なんだか落ち着かない」といった失敗に繋がることもあります。成功させるための重要なポイントを押さえておきましょう。

どこを、何のために照らすのかを明確に

まず最も重要なのは、「どこを照らして、どのような効果を得たいのか」という目的を明確にすることです。例えば、「天井を照らして部屋を広く見せたい」のであればコーブ照明、「壁の素材感を際立たせたい」のであればコーニス照明が適しています。
また、間接照明だけで部屋全体の明るさを確保しようとすると、かえって天井ばかりが明るくなりすぎ、落ち着かない空間になってしまうことがあります。間接照明はあくまで空間の雰囲気を演出するための「環境照明」と位置づけ、作業や読書に必要な明るさは、ダウンライトやスタンドライトといった「機能照明」と組み合わせる「多灯分散」の考え方が基本となります。

光源の色(色温度)と明るさの計画

照明の光の色(色温度)は、空間の雰囲気を大きく左右します。リラックスしたいリビングや寝室には、夕日のような温かみのある電球色(約2700K~3000K)が適しています。一方、作業を行う書斎や、爽やかな雰囲気にしたい場所には、昼間の太陽光に近い昼白色(約5000K)が合う場合もあります。空間の用途に合わせて、適切な色温度を選びましょう。
また、明るさの計画も重要です。間接照明は、反射させる壁や天井の素材・色によって、光の広がり方や明るさが大きく変わります。反射面が暗い色の場合は、光が吸収されて思ったより暗くなるため、より明るい光源が必要になります。設計段階で、専門家と相談しながらシミュレーションを行うことが失敗を防ぐ鍵です。

メンテナンス性を考慮した設計

間接照明は、壁や天井の奥まった場所に光源を設置するため、将来的な電球交換や掃除といったメンテナンスのしやすさを、設計の段階から必ず考慮しておく必要があります。
光源が寿命を迎えた際に、簡単に交換できるような設計になっているか、掃除の際に手が届きやすいか、といった点を施工業者としっかり打ち合わせしておきましょう。特に、吹き抜けなどの高所への設置は、交換時に足場が必要になるなど、メンテナンス費用が高額になる可能性があります。近年主流のLEDは長寿命ですが、永遠に使えるわけではないことを念頭に置いた計画が不可欠です。

まとめ

間接照明は、単に空間を明るくするだけの道具ではなく、光と影を巧みに操り、建築空間そのものの魅力を最大限に引き出すための演出手法です。コーブ照明で天井に広がりを与え、コーニス照明で壁面に奥行きを生むなど、その手法は多岐にわたります。眩しさのない柔らかな光は、私たちにリラックス効果をもたらし、日々の暮らしをより豊かで上質なものへと変えてくれます。
間接照明を成功させる秘訣は、照明の目的を明確にし、直接照明と適切に組み合わせ、そして将来のメンテナンス性までを考慮した、綿密な計画にあります。新築やリフォームの際には、ぜひ設計士や照明プランナーといった専門家と相談しながら、あなただけの理想の光の空間を創り上げてください。